今日も点滴のチューブを血が遡っていく。
「あ、逆血しちゃったのね」と看護婦が言った。 
どうやらギャッケツと云うらしかった。
僕は逆血をとても気に入っていた。

それは綺麗だった。 
真っ赤な龍がゆったりと天に昇って行く様を連想させた。

最初のうちは点滴の液体と混じってモワァとしている。 
赤い煙幕を張られたようであった。
そして徐々に淡い赤色になっていく。 薄いのかさらさらしている。
それが徐々にどす黒くなっていきネットリと密度を増していく。 
この辺になると100%近く僕の血なのかもしれない。
血はまた、チューブの中を一定の密度で進んでいくわけではなかった。
側面だけに流れていったりもした。 
横から覗くと真っ赤に染まったチューブも
回転させると細い一本の線になる事がある。 赤い線だ。
僕はこの三次元的な表情を見せる所も気に入っていた。
徐々に伸びていくという点では四次元的とも云えるかもしれない。

まるで僕の血管が透明になって体外に飛び出たようだ。 血液が流れるのが見える。
僕は逆血を楽しんだ。
何よりも僕の血が外に逆流して昇っていくなんて、非常に良いじゃないか。