祖母が死んで、銀のスプーンを貰った。
先端についた飾りから上品な印象を受ける。
大きいものと、小振りなティースプーンの2つの組物だった。

簡素な、だけどしっかりと作られた木の箱に収まっていた。
オブラートに包まれているようにうっすらと輝いている。
当たる光は押し返されずに中へと吸収されていった。

それは綺麗で、だけどそれ以上に大切なものに感じた。
じっくり見ているようでもあったし、無意識に眺めていたようでもあった。
私の手元に来てから毎日感触を確かめた。
そして、それは直ぐに錆びてきた。

触れるたびに私の手垢が銀の塊をどんどん汚していた。
大事に扱っても私が触れた所から朽ちていく。
自分の手が呪われているとさえ感じた。

きっと、スプーン達は木の箱の中でとっくに死んでいたのだ。
そして死んでしまった事に気付いていなかった。
ひっそりと蓋を閉められた木箱は時さえ密封していた。
開いた瞬間に現実が流れ込んだんだ。